それでなくとも“母の日”に比べりゃあ忘れられがち、
日本じゃあ 新参者な催し扱いで。
それでもホワイトデーやハロウィンに比べりゃあ、
お目見えの歴史は古いはずなのにな。
やっぱあれだ、一昔前だったら、父親ってのは威厳があって怖い存在で。
目上の人に“お疲れさま”とか“ご苦労様”とか言っちゃあ失礼なように。
あらためての感謝とかわざわざ構えなくともいいほど、
しっかり畏怖と尊敬の対象だったから、
根付くどころの話じゃあなかったんだろうな。
休みの日も自分の時間を優先して、
ゴルフじゃ釣りじゃに出掛けたりして。
家庭を顧みないってんじゃあないけれど、
頑固おやじ、雷おやじって呼ばれていたもんが、
アットホームなパパってのへ いきなり駆け降りて来られてもって。
家族としても戸惑うばかり、
旦那は元気で外がいいなんて言われて、
気がつきゃ居場所が無くなってたりもして。
父の日ですよって言われても、こっちだって忘れてたほどだしなぁ。
◇◇
「……………言っとくけど、
お前がなかなか慕われないのは、
父親って感覚に馴染みがない妖一だからかも知れんのだぞ?」
「そうそう。あんなまで長いこと家を空けてた方も悪い。」
「ヨーイチロ、悪りゅい子?」
微妙にお馴染み、お話的にはお久し振りの、
国道沿いのこじゃれた喫茶店、茶房“もののふ”は、
ご贔屓にしてくださってる客層が
表通りを沿線とするバス路線へと連なっている、
女子高や女子大の生徒さんたちなため。
ともすれば休日祭日の方が暇だったりするところが、
いっそ バスの時刻表と営業シフトを
合わせても良いんじゃなかろかという連動ぶりで。
その伝で言えば、今日も暇になろう日曜の開店前。
唯一の通いのホール係、蛭魔さんチのご当主さんが、
どういう趣味だか愛用の原付きベスパを駆って、
お店へ来るなり“聞いて聞いて♪”とのはしゃぎよう。
愛する坊やと昨夜のW杯の熱闘、自宅で一緒に観たと、
それは自慢げに…本人もそうと運ぼうとは思ってみなかった、
所謂サプライズだったらしいのが見え見えな様子で口にしてから、
今度はいきなり“父の日”の話を一席と来たので、
“ははぁ〜〜ん”と。
彼とは親戚筋にあたり、
同じように金髪で色白な美丈夫のお兄さんは…といや、
もうオチが見えたよんと納得し。
その傍に立ち、
深色の長く延ばした蓬髪をうなじに束ねた、
精悍な面差しした壮年のマスターの方はといえば。
理解の程は相方さんと同じながら、
どこか和んだ、微笑ましいというお顔になっていて。
“それも父性というものか。”
鋭角的ながら端正な顔立ちに、
どんなブランドでも小粋に着こなす引き締まった痩躯。
動作も言動も絶妙な冴えっぷりで、
澄ましていればなかなかのクールビューティ。
どんな強気のレイディだって余裕で翻弄して堕とせるだろう、
危険な魅惑を視線に孕んだ魔性の存在…なんて、
どこへ行ってもそんな把握でキャアキャア騒がれてしまうよな、
何とも妖しき、玲瓏な美貌の君だというのにね。
こと、一粒種の坊やの話になるとこの通り、
骨抜きの大甘な一介のお父さんへと やに下がるから困ったもの。
そんな彼がこうまで前置いたからには、
あの小さくともピリリと辛い、
おませな坊やから何か嬉しい贈り物でもされたのか。
はとこ同士で似てはいるけど、
こちらはふわふかと柔らかい印象のおちびさん、
七郎さんの愛する坊やのくうちゃんが、
「あ…。」
と、幼い指で差した先にあったのは、
それは巧みに木綿のパンツの腰へと差し込んで、
隠し持ってた携帯電話で。
いつもは無造作にカウンターへと置くそれを、
そんなして隠しているとこ見ると。
動作にあわせ、ちかりきらりと時折光る、
何か綺羅々々しいチャームでももらったものか。
“よほどのこと、
日頃は構われておりませんと言わんばかりじゃないか。”
そんな小さなアクセなぞ、
通いのお嬢様たちからだって…
それこそスワロフスキーじゃジルコニアじゃといった高級品を、
降るように差し入れられておいでだのにね。
落とせそうで落ちない、そんなやり手の彼がこうまで浮足立つとは、
血のつながり恐るべしと。
微笑ましいやら他愛ないやら、
とりあえず嬉しい“父の日”になって良かったねと、
祝って差し上げる所存の、お仕事仲間さんたちであったようです。
Happy Father's Day!
〜Fine〜 10.06.20.
** 素材をお借りしました
*いえね、毎年…ってのも妙な理屈ですが、
こちらの父上も
随分とないがしろにされてるような気がしましたので、
ここいらでたまには孝行させたろと。
きっとあの、よく出来た婿殿が、
何かやんのか?と随分前から話を振ってたに違いありません。
あと、桜庭くんあたりが、
何かしてあげといたら、
当日の日曜もお出掛けしやすいんじゃない?なぞと、
要らない知恵をつけてたかもで。
熱戦に盛り上がったそのままの熱気でもって、
お父さんにも“ありがとう”って、言ってあげてくださいませね?
めーるふぉーむvv

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